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水戸地方裁判所 昭和24年(行)78号 判決

原告 鹿志村徳之介

被告 国

一、主  文

訴外茨城県知事が昭和二十三年七月二日を買収期日とし茨城と第三八六一号買収令書の交付により茨城県那珂郡佐野村大字稲田字老の塚七〇六番の二畑二反七畝につきなした買収処分及び前同日を売渡期日とし茨丁第一二七〇二六号売渡通知書の交付により同字七〇六番の二の二畑一反歩につきなした売渡処分の無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として訴外佐野村農地委員会は昭和二十三年七月二日茨城県那珂郡佐野村大字稲田字老の塚七〇六番の二畑二反七畝につきこれを原告の所有であるとし自作農創設特別措置法第六条の二により同法第三条第一項に該当するものとして買収する旨の計画を樹て、訴外茨城県知事は右計画に基いて同日を買収期日とし茨城と第三八六一号買収令書を同年八月上旬頃原告に交付して買収処分をなした。ところが佐野村農地委員会は同日同所七〇六番の二の二畑一反歩を右買収にかゝる土地であるとして自作農創設特別措置法に依り訴外鹿志村寅次郎に売渡す旨の売渡計画を樹て茨城県知事は同日を売渡期日とし茨丁第一二七〇二六号売渡通知書を同年八月上旬頃同人に交付して売渡処分をなした。しかし右買収処分は次に掲げる第一の理由によつて又売渡処分は同じく第二の理由によつて無効である。即ち

第一、(イ) 右買収令書には買収の対象として那珂郡佐野村大字稲田字老の塚七〇六番の二畑二反七畝と表示しているが原告はこのような土地を所有していない原告の所有する七〇六番の二の畑はその面積八反八畝二十四歩である。従つて右買収処分は右八反八畝二十四歩のうちの一部分を買収する趣旨であるとみる外ないが右土地は耕作の便宜上十二箇に分割されており、その中に面積が二反七畝である部分はない。一反七畝の部分と一反の部分はあるけれども、一反の部分は五ケ所もあり、そして右は事実上の分割に過ぎず、分筆手続をしているわけではないから右のような表示ではどの部分を買収の対象としたのか買収令書上不明である。

(ロ) 尤も右の買収処分は原告が訴外鹿志村芳之介に賃貸しておいた一反歩を買収の対象とした趣旨であつたことが後に判明したけれども、右買収処分の対象とせられた一反歩は昭和二十年十一月二十三日現在において自作農創設特別措置法第五条第六号の適用を受くべき土地であつたのである。即ち右一反歩は昭和十六年十月中原告の次男保夫が応召の為手不足となつたので同人が帰還次第返還を受けるとの約定で一時鹿志村芳之介に小作せしめていたもので昭和二十一年六月中保夫が帰還したので返還を受け保夫において耕作に従事していたものである。然るに前記買収計画は昭和二十年十一月二十三日当時において右一反歩が前記特別措置法第三条第一項の小作地に該当するものとして樹立せられ右買収処分は該計画に基いてなされたものであるから違法である。

(ハ) 前記買収計画は訴外鹿志村寅次郎の請求によつて樹てたのであるが右寅次郎はかつて右土地について耕作の業務を営んだことはないのであるから同人の請求を容れて買収計画を樹てることは法律上許されない、従つて右買収計画に基いて買収処分をなすことも法律上許されない。

第二、(イ) 右売渡通知書には売渡さるべき土地として字老の塚七〇六番の二の二畑一反歩として表示せられているがこのような土地は現実に存在していない。七〇六番の二の畑八反八畝二十四歩の一部たる一反歩を指すものとしても、一反歩の部分は五ケ所もあるから右八反八畝二十四歩のうちどの部分であるかが売渡通知書に特定されていないことになり、このような通知書によつてなされた売渡処分は無効である。

(ロ) 買収計画と売渡計画とがいずれも昭和二十三年七月二日に樹立せられたのであるがこのように同一の土地について同時に買収と売渡しの二つの手続を進行させることは違法である。そして又売渡処分は買収処分が有効であることを前提とするのであるから買収処分が無効である以上売渡処分も無効といわねばならない。

(ハ) 訴外鹿志村寅次郎は籠屋を業とし農業に従事するものではなく、農業に精進する見込のあるものではないから自作農創設特別措置法第十六条同法施行令第十七条に該当するものとは謂えない、従つて右売渡を受け得べき資格を有しないにもかゝわらず右売渡処分においては同人を売渡しの相手方としている違法がある。

以上第一、第二の各違法原因は何れも重大な瑕疵であり従つて右買収処分及び売渡処分はいずれも無効であるからその無効であることの確認を求めるため本訴請求に及んだ次第であると陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として買収処分の無効確認を求める訴は昭和二十六年一年二日当庁受附請求の趣旨訂正申請書をもつて売渡処分の無効確認を求むる訴の請求の趣旨を変更して追加せられたものであるが右の二箇の訴は請求の基礎を同じくしないから右の訴の変更には異議がある。右訴の変更が許されない以上本訴においては本件土地の買収処分は有効なものとして扱うの外なく、従つて有効に政府の所有に帰した土地についてそれが何人に売り渡されようともその売渡処分によつて原告は何等の権利を害されないのであるからその無効確認を求める法律上の利益を有しないと述べ、次いで本案について請求棄却の判決を求め、答弁として訴外佐野村農地委員会が原告主張の通り買収計画及び売渡計画を樹立し(但し買収及び売渡の各計画樹立の日は争う)訴外茨城県知事が右計画に基いて昭和二十三年七月二日を買収並びに売渡の期日として原告主張の通り買収処分及び売渡処分をしたこと、買収令書及び売渡通知書にそれぞれ買収及び売渡の対象たる土地につき原告主張通りの表示がなされていたこと、原告が昭和二十年十一月二十三日以前より原告主張の字老の塚七〇六番の二畑八反八畝二十四歩のうち一反歩を訴外鹿志村芳之介に賃貸し耕作させていたことは認める。しかしながら原告が買収処分及び売渡処分の無効原因として主張する事実のうち、

第一、(イ)及び第二、(イ)については本件買収処分及び売渡処分の対象たる土地はいずれも那珂郡佐野村大字稲田字老の塚七〇六番の二畑八反八畝二十四歩のうち原告が昭和二十年十一月二十三日当時鹿志村芳之介に賃貸していた一反歩の部分なのである。

原告主張の買収令書に字老の塚七〇六番の二畑二反七畝と表示し、又売渡通知書に同番の二の二畑一反歩と表示したのはいずれも字老の塚七〇六番の二畑八反八畝二十四歩のうちの一反歩と表示すべきを誤つて記載したものに過ぎない。そして右一反歩は現地において判然と区劃されているのであり買収令書上にはその場所を特定するに足る表示はなされていないけれども売渡通知書には佐野村農地委員会が手続進行の便宜のため事実上分割した同番の二の二という表示がしてあるのであつて買収並びに売渡の対象たる土地の表示が不特定不明確であるとの原告主張は理由がない。

第一、(ロ)については右一反歩が仮に原告主張のように原告の次男保夫の帰還次第返地するとの約定の下に鹿志村芳之介に賃貸してあつたものとしても、昭和二十年十一月二十三日当時は小作地であつたのであり、地主たる原告自身は応召したのではないのであるから、これを小作地として買収することを妨げないのである。

第一、(ハ)については鹿志村寅次郎が従来前記土地の小作人でなかつたことは原告主張の通りであるが、前記買収計画は鹿志村寅次郎の請求によつて樹てられたものでなく、鹿志村芳之介の請求によつて樹てられたものである。

第二、(ロ)については、買収計画樹立の日は昭和二十三年六月十日であり、売渡計画樹立の日は同月十九日であつて、原告主張のように同年七月二日に右各計画が樹立されたのではない。たゞ買収及び売渡の各期日をいずれも同年七月二日と定めて計画が樹立されたに過ぎない。そして買収と売渡とを同時に計画しその手続を進行させることは少しも違法でない。

第二、(ハ)については、鹿志村寅次郎が農業に精進する見込のない者であるとの原告主張事実を否認する。本件土地については前記鹿志村芳之介が買受の申込をしなかつたので自作農創設特別措置法施行令第十八条第二号により鹿志村寅次郎に売渡すことになつたのであり、この点について何ら違法の点はない。(立証省略)

三、理  由

被告は原告が買収処分の無効であることの確認を求める訴はさきに提起せられた売渡処分の無効確認を求める訴と請求の基礎を同じくしないから右訴に併合することは法律上許されないものであるというのでまずこの点を判断するに、本件記録によれば原告はさきに訴外茨城県知事のなした売渡処分の無効確認を求め、後に請求の趣旨訂正申請書をもつて買収処分の無効確認を求める訴をも追加したものであることが明らかである。

しかしながら、原告が本訴を提起したのは、もともと本件土地は原告の所有であり、農地改革により自作農創設を目的とする行政処分即ち原告より本件土地を政府に買収し更にこれを他に売渡す処分がなされたけれども、それは無効の処分であり、その結果原告としては本件土地の所有権を失つていないことを明かにするにあつたとみるべきである。さすれば原告としては初めから右買収と売渡の双方の処分を訴の対象とすべきであつたのであるが原告は先に売渡処分のみを取り上げてその無効確認を求め、後に買収処分の無効確認をも追加して申立てるに至つたのである。そして農地の買収と売渡とは別個の手続としてなされるものではあるけれども、元来売渡処分は買収処分を前提とするものであるから、もしも買収令書の交付による買収処分が無効であるならば、同一土地につき売渡通知書の交付による売渡処分がなされてもそれは未だ政府の所有に属しない土地についてなされた売渡処分に外ならず、その理由のみで当然無効の処分というべき関係にあり、もともと買収手続と売渡手続とは相まつて自作農創設の手段たるものであるから、両者は互に密接な関連性を有するものといわねばならない。原告が本件土地の買収並びに売渡の行政処分の無効確認を求めるのはその無効確認を求める利益あることを原告が本件土地の所有者たることに依拠するものとなし、本件土地についての自作農創設特別措置法による所有権の変動を否定せんとするものである以上、買収処分と売渡処分が別個の手続であるとの理由により請求の基礎に変更あるものとして、買収処分に関する訴の追加を許さずとするのは妥当でないと思われる。又右訴の追加により訴訟手続を著しく遅滞せしめるものとも認められないからこの点に関する被告の抗弁は採用しない。だから右請求の追加拡張が請求の基礎に変更があるから許されないという被告の本案前の抗弁はこれを認容することができないし従つて又右請求の拡張が許されないから、売渡無効の確認を求める請求は訴の利益がないという被告の抗弁も採用することができない。

次に訴外佐野村農地委員会が茨城県那珂郡佐野村大字稲田字老の塚「七〇六番の二畑二反七畝」につきこれを原告の所有であるとし自作農創設特別措置法第六条の二により同法第三条第一項に該当するものとして買収する旨の計画を樹て訴外茨城県知事が右計画に基いて昭和二十三年七月二日を買収期日とし、買収土地の表示として前記の通り記載した茨城と第三八六一号買収令書を同年八月上旬頃原告に交付して買収処分をしたこと、又佐野村農地委員会は「同番の二の二畑一反歩」を訴外鹿志村寅次郎に売渡す旨の売渡計画を樹て茨城県知事は前記昭和二十三年七月二日を売渡の期日とし、売渡地の表示として右の通り記載した茨丁第一二七〇二六号売渡通知書を同年八月上旬頃鹿志村寅次郎に交付して売渡処分をしたこと、右七〇六番の二畑が元来原告の所有であり、その面積が八反八畝二十四歩であること、前記買収につき二反七畝とし、売渡につき一反歩としたのはいずれも七〇六番の二畑八反八畝二十四歩中原告が昭和二十年十一月二十三日当時訴外鹿志村芳之介に賃貸していた一反歩を買収し売渡す趣旨のものであつたことは当事者間に争がない。原告は買収及び売渡の各計画が昭和二十三年七月二日樹立されたと主張するけれども、成立に争のない乙第一、二号証によると買収計画の日は同年六月十日頃売渡計画の日は同月十九日頃であり、唯買収及び売渡の期日が同年七月二日と定められていたのであることが認められる。

そこで原告主張の第一(イ)の無効原因について考えてみるに、買収処分は買収令書の交付によつてこれをなし、これによつて直ちにその対象とせられた土地につき従前の所有者の所有権を消滅させ、政府においてその所有権を取得するという効果を生ずるものであるから、いかなる土地が買収されるかゞ買収令書に判然とされていなければならない。もし一筆の土地の一部を買収するのであればそれがその一筆の土地のうちどの部分であるかゞ買収令書の上に明確にされていなければ、どの部分を買収するかゞ不明確である結果前記のような所有権変動の効果を生ずるに由なく結局その買収処分は無効というの外はない。本件において買収令書に記載された二反七畝という部分が七〇六番の二畑八反八畝二十四歩のうちどの部分であるかゞ買収令書の上に明らかにされていなかつたことは被告も争わないところであるから、前記の趣旨において右買収令書の交付による買収処分は当然無効であるといわねばならない。

右買収処分が前記八反八畝二十四歩のうち原告から鹿志村芳之介に賃貸してあつた一反歩を買収するつもりでなされたものであることは現在では当事者間に争がないけれども、これがため右買収処分の無効であることに何ら変りなく、いわんや一反歩と二反七畝歩とでは面積も異り、原告本人訊問の結果によれば前記八反八畝二十四歩は十二の区画に分けられ、その中には一反七畝の部分も一反の部分もあり、一反の部分は五ケ所も存するのであつて、原告は買収令書の交付を受けた当時どの部分を買収する趣旨かよく判らなかつたというのであるから、前記買収令書の誤謬は書損に類する明白な誤謬であつたとは認め難く、該令書による買収処分を有効とみることは到底できないのである。

してみれば右と同一の土地についてなされた売渡処分が未だ政府の所有に帰属するに至らない土地についてなされたものとしてこれ亦無効であることは当然であるといわねばならない。原告は本件土地につき元来所有権を有していたものであることは前記の通りであるから、右買収並びに売渡の各処分の無効であること(これらの処分の基礎たる買収並びに売渡の計画樹立及び承認の効力は別問題であることは勿論である)の確認を求める原告の本訴請求は爾余の争点について判断するまでもなく、正当であるから、これを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 綿引末男 石崎政男)

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